さくら物語19号
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「デザイン」の視点から見る、今 須藤 私はデザイナーとして、木工加工者と消費者をつなぎ、山や森、 県産材と人の新しい関わり方を考え、実践する活動をしている。この対 談の会場となった「icho café(イチョウカフェ)」も、活動の一例。イチョウ カフェは「熊野大社(南陽市)」に隣接していて、もとは地元産のリンゴや ジュースを扱う和室造りの売店だったが、店主のおばあちゃんが高齢と なり、休業が続いていた。大社に訪れる年間30万人もの観光客も、 観光バスで乗り入れ、参拝したら次へ移動してしまう。大社周辺は、 少し足を伸ばせば歴史ある商店や若い跡継ぎも多い魅力ある地域。 ここはカフェでもあり、スタッフとの会話から街の良さを知っても らう、地元産の美味しい食材(ハチミツ等)を味わってもらうなど、観 光客に「街におりてみようかな」と感じてもらうための拠点でもある。 「土地の話題を提供できるスタッフが、土地の食や物を発信する」と いう一見シンプルだが、実は難しい仕組みにチャレンジした。地元の 若者が出資、地元企業からも御協賛いただいて、街の人がオーナーを 担う。「クラウドファンディング」のアナログ版のような経緯ででき た場所。中央にある大きなテーブルには、カフェの前にそびえる大 イチョウ(山形県指定天然記念物。推定樹齢800年以上)にちなんで県 内産のイチョウ、また、窓際のテーブルには、県内産ヒノキを使用して いる。ヒノキは神様の木とされ、上に物を置く使い方をされる事は少 ないが、大社にちなみ、敢えて取り入れている。乾燥等に工夫をし て、使用感にもこだわった。 横尾 オープンして2年程だそうだが、反応はどうか? 須藤 嬉しいことに、年代問わず、多くの観光客で賑わっている。そこへ 地元のおばあちゃんやおじいちゃんがやって来て、外から来た方と「地元で こんな良いのあるから寄って行ったら~」と会話を交わす。街の良さは、 その土地の人の良さ。私自身、観光は地元の人と触れ合うこともとても大 事だと思っていて、オシャレすぎるカフェは利用層を狭めてしまうが、イ チョウカフェでは、とてもオープンで親しみやすい雰囲気が育まれている。 横尾 須藤さん自身の本業とは? 須藤 大学卒業後も山形へ残り、デザイン事務所を3年程経験して独立した。 今は企業や店舗、自治体、作家や個人の方等、幅広いお客様と仕事をさせ ていただいている。「デザイン」が意味するところは様々で、大学の授業で 家具修復を学んだ時は、実験的な斬新さを求められたり、手仕事としての 技術を身につけたりすることが多かった。そのうち、「デザインが人からど う受け止められるのか」という社会の仕組みが知りたくなり、在学中に街に 飛び出してフィールドワークを行った。すると、「なりたい姿はあるけれど、 そうなれる気がしない。方法がわからない。」といった街や企業の不安や 問題が見えてきて、この経験から、私にとって「課題を可視化し、それを 解決していくための手段」が「デザイン」だと思った。今でも、家具修復やグ ラフィックデザイン、プロダクトデザイン、ロゴやホームページ等分野や 手段を横断して、ベストな方法で依頼主の課題解決や目的達成につなげることを大事にしている。最近行ったのは、今年 3月に山形市内にオープンした「ボルダリングジム」のリノベーションを中心にしたプロデュース。元は会社倉庫だった 建物を、ジム仕様に改装した。空間設計、家具選定アドバイス、ロゴマークやホームページ、名刺制作等を一手に引き受け、 依頼主が望む、施設の「らしさ」がジムのお客様へ伝わるよう、オープン後のフォローも続けている。他にも「エスパル 山形(JR山形駅に隣接するショッピングセンター)」が、「山形らしさ」を発信するにあたっての広報をディレクション。 ターゲット像を設定し、ロゴやコンセプト、山形の四季をモチーフにしたグラフィックデザイン、広告素材の制作、工芸 品を展示するミニギャラリーの運営、館内装飾の一部を請け負った。私のルーツは「家具修復士」で、目指したきっかけは 前述のフィールドワークにある。 |美しい山形・最上川フォーラム|03 須藤 修 デザイナー 東北芸術工科大学 非常勤講師 LCS 共同主宰 山の形共同代表 2009年より家具の修復をはじめ、依頼を受けて 持ち主の想いを修復に生かすこと、また自身が 制作する修復家具の販売を行っている。それを 軸に、森林と人との新しい関わり方を考える「YAMAMORI PROJECT」や、山形の新しい 道具をつくる「山の形」の共同代表など。山形を 軸としたデザイン活動を行う。 【MAIL】 o.suto@me.com FORUMTALK 施設ディレクションを行ったBOULDERING358 自身の展示会 STOCKS repair&used開催時の様子

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