建築士山形 2017 No.97 architect of yamagata
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 平成28年12月9日、建築士会西村山支部で技術講習会が開催されました。その起案理由は、素朴な疑問:「木」ってなぜ割れるのか?の提議であります。施主の方々の住宅を取得する意識の変化に伴い「住宅を建てる、建築する時代」から「住宅を購入する」住まいを買う時代と変化しつつあるように思われます。 「自分たちの力で住宅を建てる」時代から「住宅を買う」時代へ変わり、木材である無垢材の持ち味であった「日本人の心とも言われる侘び寂びの精神」に変化が生じて「味わいという表現を求め築造してきた住宅」から「完成品の購入」と変わり、依頼者施主様の言い方も「クライアント」などと呼ばれている方々も多くなりました。 建物に求められる品質への完成度は高く、それは「長年の間には住宅の素材は劣化する」と言った常識であった認識自体の存在が「かすんで見えてしまう」ような、時代がすぐ近くまで押し寄せているかのように思われる点でもあります。 今まで当たり前と考えてきた「無垢の木が割れる」ことが「クレーム」と言う言葉に変わり、クレームと言う言葉だけが一人歩きしつつあり、たまには「モンスター・クレーマー」などと名前を変えてくる時代ともなりました。 そんな点の問題提議を含め、今回、講習会が開催されることの背景には「木」の本質を知りたいという素人的発想の要因にあります。講師の先生に「やまがた県産木材利用センター理事長」であります安部先生をお迎えし「木」についての基本的事項の講習、その後に匠や建築士、林業士等6名の各々の立場におけるパネルデスカッションを行い「木」が割れることに対する意見や、木が育つ過程、木が割れることに対する依頼者施主様への各々の対応した経緯等についてもデスカッションができたと思っております。 パネラーの方々を含め、講習会に参加してくださった建築士の方々の立場の違いから、多方面の意見の発信ができ、「木」に対しての熱の入った今回の講習会となりました。 これを切っ掛けとし「木」に対する各々の問題意識を高め、今後の実務に行かせるようにしていきたいとの締めくくりとなったと考えています。 しかし、起案者から見るとこの今回の講習会により、新たな課題が浮かび上がってきたように見える点であります。 施主様からのクレームを意識し過ぎ、無垢材から集成材を使用するなどの「木の割れに対するクレームへのクライアント対策」が現実かするように思える点であります。 「無垢材から集成材」へ、「匠の加工材の刻み」から「プレカット加工化」へと素材の選定と加工にも変化が見えだす点、そのことの示す結末とは何かと考えると、これまで築き上げてきた、匠達の卓越した技の伝承が、廃れることの現実が見え隠れすることは「いがめない事」であると感じています。 無垢材を使用することへのこだわりは、日本人がもっとも好む「素材の味わいの表現」や「侘び寂びの精神」に支えられてきた、日本木造建築であったのではないでしょうか? 何気なく「木」ってなぜ割れるのか?なんて今まで、「考えもしなかった」とは大げさとしても、先人たちの匠が現代に引き継ぎ「無垢材は割れる」、この一文字の「木」を知り尽くし、現代に伝承し続けてきた匠達、「木」の持ち味を上手いこと使いこなし、素材の使い勝手を考え割れが見えないように、自然体の中、身体で覚え育まれてきた匠達の、「技と素材の力や持ち味を見透かす見る眼」であったのではないのでしょうか? 今回、掲げたテーマの一つに「木が割れないようにできないか」という問題提議もありましたが、今回の講習会で将来を見据えたテーマとして「木は割れる」そのことをリスクととらえず、無垢材・日本家屋の「素材の味わい」「侘び寂び」と言った事について建築依頼者施主様との目的意識の共有と「心の信頼」の関係の上に築かれた絆が、今回の「木」ってなぜ割れるのか?の意味深いところの問題解決の一歩に繋がるような気がいたしました。 起案者の後記として、これから先、我々建築士が匠たちと一緒に知恵と技を携えて共に何ができるか、何を提供し何を発信できるか、「共に歩むことへの期待と希望が見えた」今回の講習会であったと思っています。 今回の課題の提議が次への講習会への力となり、回を重ねることによる建築士の自己研鑽につながると思っております。 この度の技術講習会では、講師の先生を始め、パネリストの方々の協力を頂き、また、今までにない多くの講習会参加者の出席を頂くことができました。今回の技術講習会に、ご協力をいただきました事誠にありがたく厚く御礼申し上げます。髙橋政広 TAKAHASHI masahiro From西村山支部新たな次への課題が見えてきた講習会。Page15TitleNameNumber会員だより5/11TAKAHASHI masahiro

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