建築士山形 2017 No.97 architect of yamagata
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 電卓、ましてやコンピュータの無い時代の設計ツールが何であったか知る人間の数がどんどん少なくなってきた。ある事務所の応接にタイガー計算機がディスプレイされていた。聞こえは良いが最新のワークステーションの名称では無い。手回しで結果を得る肉体労働直結型の゛ジコジコ、ピン、チン゛音の実にうるさい代物。もっぱらそろばんと計算尺の私はほとんど使ったことが無い。どの分野でも技術計算分は計算尺の独壇場、おまけに有効桁が3桁程度であるから、脳内計算機で桁数を記憶しながらおこなうので、直感的なカンは働くようになる。しかし間もなく、単精度8桁、倍精度で16桁、この間を小数点が行き来して出力するコンピュータの魔力にすっかり毒され、脳内計算機は卓上のそれに外注ばかりするので、カンの鋭さはその時代から上昇していない。そのくせ、口だけはやたらと煩くなってきた。  クラッシュ間近のディスクかファンのように・・・。 アプリケーションが豊富になり、プログラミングの必要がなくなると今度はサイトの検索能力が仕事を左右することとなった。サーチャーを志したこともないので非効率にあっち、こっちとウェブサイトの検索システムで、何とか目的のものを探し出して利用する。 一方、現場確認はもっぱらグーグルである。隣の敷地への立ち入りにも、上空から覗こうが誰にも怪しまれたりしない、それより近隣全体が把握できる。常に晴れていて雨傘、長靴不要、雪など降った例が無い。車を利用しないから高速道路を逆走する心配もない。おまけに酒田市役所の議会棟は2次元では掘削工事中、3次元では旧庁舎が建っているなどと、面白い現場に出くわす。出不精に拍車がかかり、なんでもウェブサイトに頼る。 国土地理院の航空写真データが役に立つ、都市計画図が意図したことへの回答が明確に表れている。一番有難いのは計画敷地の履歴である。米軍が占領政策のために撮影したのかと思われる古いものから多数存在する。以前の建物、大型基礎解体で地盤が乱されたか、旧河道の上、もとは畑か田んぼ、今は無い堰、切り土に盛り土、見えてくるものは様々・・・。 CADを「ズームアップ!老眼鏡不要の製図版」と例えた先輩建築士も故人、今度は、出不精が「見たか現場」に「このとおりか現場」と益々口うるさい人間に・・。 河原に表れた渡し船への細い道筋は大橋に、遊んだ湿地は農地に、曲がりくねった河川は真っ直ぐに、小学校の校舎とグランドは敷地内を行ったり来たり、大火と復興の履歴も・・。便利でありがたいアーカイブ。  ん! 愚作は解体しても消えない ということか・・。赤谷典夫 AKATANI norio From酒田支部過去・未来 ウェブサイトアーカイブ。Page12TitleNameNumber会員だより2/11AKATANI norio

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