建築士山形 2016 No.96 architect of yamagata
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建築それは 深い沈黙の底で言葉という言葉を文字という文字を超えてより量感あふれる立体の出現を待っている(中津 玲「建築譜」(1975)より抜粋) 私達は先日先輩建築士のお宅に受賞祝いに伺いました。 その人は弦つる木き作さく美み。かつて弦木建築設計室を主宰し、建築士会鶴岡田川支部の50年誌発行(平成13年)に際しては編集委員長を務められた方。弦木さんは途中道に迷った私達を道端に立って迎えてくれました。 今回受賞されたのは第58回「高たか山やま樗ちょ牛ぎゅう賞」。庄内の文芸・評論などで功績のあった人に贈られます。弦木さんはその文筆活動によって評価されました。 高山樗牛を知る人は今でこそ少ないようですが、私の家には樗牛の胸像の置物がありました。鶴岡市出身でニーチェ哲学などを紹介した思想家にして文芸評論家。東京帝国大学講師を務め、31歳で夭折しました。この賞はその高山樗牛を顕彰するものです。 弦木さんは現役時代からペンネームで文筆活動を続けて来られました。ペンネームは中なか津つ 玲れい。冒頭の詩「建築譜」も弦木さんの作品です。 建築を離れてからは小説を執筆され、2003年には鶴岡の善寶寺五重塔の建立秘話を題材にした「五ごじゅ重うの塔とう遺い聞ぶん」によって第19回真壁仁・野の文化賞を受賞されています。 そして今年3月には「上弦の月」(鶴岡市出身の医師で大正から昭和初期にかけ地元の芸術文化活動に大きな足跡を残した星ほし川かわ清きよ躬みの生涯を題材にした作品)を上梓されました。  受賞に於いて弦木さんの活躍は「郷土に根ざした題材を独自の視座で捉えるなど長年の地道な創作活動は、地方文化の啓発向上に大きく寄与している」との評価を受けました。 事務所に通して頂き話を伺っていると、弦木さんは自然に目を見て話をしてくださる穏やかで構えた所の無い方でした。真の懐の広さとは、対峙して広大と感じる様なものでは無く、構えが無いがゆえに一見では大きさを意識させない様なものなのだなあと感じるひと時でした。 私達の多くは、建築の仕事の傍ら様々な趣味を持って日々を過ごしています。だからこそ判るのは、趣味をこれ程までに成し得ることが困難極まりないということです。 だからこそ趣味は違えども同じ建築士が、それを成したと言うことへの驚きは自ずと賞讃へと変わるものでした。 今日の午後は用事があるからと言われて午前中に訪ねたその日、市内で樗牛賞の授賞式が開かれていたことを後日地元の新聞で知りました。そのように誇らしいことを私達には一言どころか素振りも見せない。 弦木さんは実るほどに謙虚な方でもありました。荘内日報社提供平成27年11月27日井上孝紀 INOUE takanori From鶴岡田川支部先輩建築士の偉業。Page13TitleNameNumber会員だより3/7INOUE takanori

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