クローバー第42号 平成28年7月1日発行
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032016・7・1診察室44麻酔科医長 篁たかむら  武郎喫煙していると全身麻酔が危ない 手術のための麻酔の中で最も代表的な方法が全身麻酔です。全身麻酔とはどのような麻酔なのでしょうか。麻酔の3要素は無痛、無意識、無動です(厳密には「有害な神経反射を抑える」という要素も加えますが)。手術中に痛みを感じない、意識や記憶がない、手術を行う上で障害となったり危険であったりする筋肉の動きがない状態です。全身麻酔はこの3要素を完全に満たす方法なのです。このような状態では十分な呼吸ができなくなります。そこで全身麻酔中は原則として機械による人工呼吸になります。喉と肺をつなぐ気管という管状の臓器に専用のチューブを挿入して、このチューブに人工呼吸器を接続するのです。 では、喫煙は全身麻酔にどのようなリスク危険性をもたらすのでしょうか。まずは気管にチューブを入れるときです。食事中におしゃべりをしているときなどに噎せて(むせて)激しく咳き込んで苦しんだことは誰にでも一度や二度はあると思いますが、これはわずかな固形物や水分が気管に迷い込んでしまっただけで起こる反応です。全身麻酔ではこの気管に人差し指ぐらいの太さのチューブを挿入するわけですから、その刺激は非常に強いものとなります。喫煙しているとこれらの刺激に対してより敏感になるので喘息を起こしやすくなるのです。この段階で喘息を発症すれば手術は確実に中止となり、人工呼吸のまま喘息の治療が始まるのです。この危険性は手術が終わり麻酔から覚めてチューブを抜く間際にも高まります。 もう一つが人工呼吸による影響です。人工呼吸中は肺が膨らみにくく、また肺の中で痰が増えやすくなるのですが、喫煙によりこれらの状況はさらに悪化して術後肺炎や無気肺の原因になります。術後肺炎に罹ると、罹らない場合に比べて術後30日の死亡率が10倍以上になったという研究結果もあるほど危険性が高まります。 喫煙は心臓病や脳卒中、各種がんなどの様々な病気の原因になります。更に恐ろしいのが受動喫煙という問題です。受動喫煙とは喫煙しない人が他人の喫煙による煙を吸わされるということです。受動喫煙で死亡する人が全世界では60万人、日本だけでも15,000人ほどにもなるという調査結果があります。受動喫煙は煙を直接吸わなくても起こります。別の場所で喫煙した人の服装や吐く息からタバコの有害成分が放出されて周囲の人が影響を受けるのです。実際に、喫煙者と一緒に住む幼児の毛髪や尿からニコチンの代謝物が検出されており、受動喫煙により肺がんになる危険性はアスベスト住宅に住む場合の100倍という報告もあるほどなのです。喫煙しない人にとってこれほどの理不尽があるでしょうか。 「いつか全身麻酔を受けるかもしれないから禁煙しよう」という決心はなかなかできないでしょう。しかし家族や大切な人への影響を考えると心が動かされるのではないでしょうか。皆さんのご家庭でも喫煙についていちど話し合ってみませんか。 もちろん手術が決まった人や手術を受ける可能性がある人は必ず禁煙してくださいね。 5月12日はナイチンゲールの生誕の日で、毎年全国各地にて市民と保健・医療・福祉施設の関係者が交流し、簡単な看護体験を行うイベントを開催しています。 今年は当院に高校生6名の参加がありました。参加されたみなさんに任命書が手渡され、病院内の見学、入院患者さんとのふれあいや看護体験、新生児の沐浴見学などを行いました。イベント後には「患者さんの目線に立って細かい配慮をすることの大切さを知りました」「様々な体験を将来の自分に活かしていきたい」などの感想が聞かれ、看護することや人の命について理解と関心を深める機会を提供できたことを大変うれしく思いました。また、緊張をしながらも笑顔で看護に取り組むみなさんの姿が、微笑ましくとても輝いていました。参加されたみなさんの将来の夢の実現、今後の活躍に期待します。ふれあい看護体験

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